生徒の情報活用能力を育むキュレーションツール Wakelet:オルタナティブ教育での実践例
はじめに
現代は、インターネットを通じてあらゆる情報にアクセスできる「情報爆発」の時代です。このような環境において、単に情報を収集するだけでなく、信頼性を見極め、自らの目的に沿って整理し、意味づけを行い、他者と共有する「情報活用能力」は、生徒がこれからの社会で生き抜くために不可欠な力となっています。
オルタナティブ教育においては、生徒一人ひとりの興味や関心に基づいた探究学習やプロジェクト型学習が重視されることが多く、この情報活用能力の育成は特に重要なテーマの一つです。しかし、生徒がデジタル環境で情報収集を行う際、情報の取捨選択や整理に迷ったり、集めた情報をどのようにまとめ、表現すれば良いか悩んだりする場面が見られます。また、教師側も、生徒に提示する学習リソースを効果的にキュレーションし、分かりやすく提供する方法に課題を感じることがあります。
本記事では、このような課題に対応し、生徒の情報活用能力育成をサポートするエドテックツールとして、「Wakelet(ウェイクレット)」を取り上げます。Wakeletがどのようなツールであり、オルタナティブ教育の現場でどのように活用できるのか、具体的な実践例とともにご紹介します。
Wakelet(ウェイクレット)とは
Wakeletは、ウェブサイトのURL、動画、画像、PDF、ツイートなど、インターネット上の様々なデジタルコンテンツを一つの場所に集めて整理し、「コレクション」として共有できる無料のキュレーションツールです。集めたコンテンツは、タイル表示、メディア表示、列表示など、様々なレイアウトで視覚的に整理することが可能です。テキストメモや見出しを追加して、コレクションに文脈や構造を与えることもできます。
個人での利用はもちろん、他のユーザーと共同でコレクションを作成・編集する機能もあり、グループでのプロジェクトや情報共有にも適しています。作成したコレクションは、URLやQRコードで簡単に共有したり、ウェブサイトに埋め込んだりすることができます。
オルタナティブ教育での活用例
Wakeletは、その柔軟性と視覚的な整理機能から、オルタナティブ教育の多様な学習活動において有効活用が期待できます。
1. 探究学習における情報収集・整理
生徒が探究テーマを設定し、インターネット等で情報収集を行う際に、Wakeletは強力なサポートツールとなります。
- 生徒個人での活用: 探究テーマに関するウェブ記事、関連動画、参考になる画像、PDF資料などを次々とコレクションに追加していきます。情報源をその場で保存し、後から見返して内容を確認・整理できます。関連する自分の考えやメモをテキストとして追加することで、思考プロセスを記録することも可能です。情報の洪水に圧倒されることなく、自分だけのデジタルスクラップブックを作成する感覚で、楽しみながら情報整理を進められます。
- グループでの活用: グループで一つのテーマを探究する場合、共有コレクションを作成します。グループメンバーそれぞれが見つけた情報を同じコレクションに追加し、共同で情報を整理・分類します。これにより、グループ全体でどのような情報が集まっているかを可視化し、重複を防ぎながら効率的に情報収集を進めることができます。また、集めた情報についてコレクション上でコメントを交換するなど、共同での情報分析にも活用できます。
2. 教師による学習リソースのキュレーション
教師が生徒に特定のテーマや単元に関する学習リソースを提供する場合にも、Wakeletは便利です。
- テーマ別リソース集: 特定の探究テーマやプロジェクトに関する入門記事、参考になる動画、オンライン資料、関連ウェブサイトなどを一つのコレクションにまとめ、生徒に提示します。生徒は、教師が厳選した信頼できる情報源に簡単にアクセスでき、どこから学習を始めれば良いか迷うことが少なくなります。
- 多様なメディアの提示: テキストだけでなく、動画や画像、PDFなど、様々な形式のコンテンツをまとめて提示できるため、生徒の多様な学習スタイルに対応できます。視覚的な理解を助ける動画と、より詳細な情報を得るための記事を組み合わせるなど、バランスの取れたリソース提供が可能です。
3. プロジェクト学習の成果発表
探究学習やプロジェクト学習の最終的な成果物を、Wakeletのコレクションとしてまとめることができます。
- ウェブサイト風の発表資料: 集めた情報や学習プロセスを示す資料(画像、動画、PDFなど)を整理し、テキストによる解説や見出しを追加することで、ウェブサイトのような形式で成果を発表できます。レポート形式だけでなく、視覚的に分かりやすく、インタラクティブな発表資料を作成する手段となります。
- プロセスの可視化: 情報収集段階の資料、実験や制作の過程を示す写真や動画、最終的なまとめなど、学習のプロセス全体を一つのコレクションに含めることで、生徒の学びの軌跡を可視化し、共有することが可能です。
4. ポートフォリオの一部としての活用
特定のテーマや期間における学びの成果やプロセスをまとめたコレクションを、生徒のデジタルポートフォリオの一部として活用できます。例えば、「〇〇に関する探究活動の記録」「△△プロジェクトの成果物」といったコレクションを作成し、生徒の成長の記録として蓄積していくことが考えられます。
Wakeletのメリット・デメリット
メリット
- 情報の視覚的整理: 様々な形式のデジタルコンテンツを直感的なインターフェースで視覚的に整理できます。情報の関連性や構造を分かりやすく示すことが可能です。
- 多様なコンテンツ対応: ウェブサイト、動画、画像、PDF、ツイート、GoogleドライブやOneDrive内のファイルなど、幅広い種類のコンテンツを一つのコレクションに集約できます。
- 共同作業の容易さ: 複数のユーザーが同時に一つのコレクションを編集できるため、グループワークや教師と生徒間の共同作業に適しています。
- 操作のシンプルさ: コンテンツの追加やコレクションの作成・編集がドラッグ&ドロップなどで直感的に行えるため、デジタルツールの操作に慣れていない生徒や教師でも比較的容易に習得できます。
- 無料プランで十分な機能: 無料プランでもコレクションの数やコンテンツの追加に制限がなく、基本的な機能は十分に利用可能です。
デメリット
- 特定の用途には不向き: 高度なデータ分析、複雑なプログラミング、インタラクティブな教材作成など、特定の専門的な用途には向いていません。あくまで情報収集、整理、キュレーション、共有に特化したツールです。
- 情報整理・共有に特化: コレクション内で完結する学習活動には適していますが、他の学習管理システム(LMS)との連携機能などは限定的です。(教育機関向けプランでは一部機能がある場合もありますが、一般的な無料/有料プランではシンプルです。)
- コンテンツ作成機能は限定的: コレクション内にテキストや見出しを追加する機能はありますが、高度なドキュメント作成やデザイン機能はありません。集めた外部コンテンツを整理することに主眼が置かれています。
導入・運用について
Wakeletの導入は非常にシンプルです。
導入ステップ
- アカウント作成: Wakeletのウェブサイトにアクセスし、メールアドレスやGoogleアカウント、Microsoftアカウントなどで無料でアカウントを作成します。
- ブラウザ拡張機能/アプリのインストール: より手軽にコンテンツを追加するために、利用しているウェブブラウザ(Chrome, Firefox, Edgeなど)の拡張機能や、スマートフォン・タブレット用のアプリをインストールすることをおすすめします。
- コレクション作成開始: アカウント作成後、すぐに新しいコレクションを作成し、情報の収集・整理を開始できます。
コスト
- 無料プラン: 個人の学習者や教師が利用する場合、無料プランでほとんどの機能を制限なく利用できます。コレクション数や追加できるアイテム数に制限はありません。
- 有料プラン: 教育機関向けの有料プラン(Wakelet for TeamsやWakelet for Classroomsなど)も存在しますが、主に一括管理機能や詳細な分析機能などが追加されるものであり、個々の教師や少人数のクラスでの利用であれば無料プランで十分対応できる場合が多いです。最新の料金体系やプラン詳細は公式サイトでご確認ください。
操作性・習得コスト
Wakeletの操作画面は非常に直感的です。コレクションの作成、コンテンツの追加(URLのペースト、ブラウザ拡張機能のクリック、ファイルのアップロードなど)、レイアウト変更、テキスト編集など、主要な操作は数回のクリックやドラッグ&ドロップで行えます。デジタルツールの操作に慣れている方であれば、短時間で基本的な使い方を習得できるでしょう。デジタルツールに不慣れな方でも、視覚的に分かりやすいインターフェースであるため、ガイドを見ながら操作すれば、それほど時間はかからずに慣れることが可能です。生徒にとっても、視覚的な操作は取り組みやすい傾向にあります。
サポート体制
Wakeletはオンラインで詳細なヘルプセンター(FAQ)を提供しています。基本的な使い方から応用的な活用方法まで、多くの情報が網羅されています。問題が発生した場合の問い合わせ窓口も用意されています。公式サイトやヘルプセンターは主に英語ですが、ウェブブラウザの翻訳機能などを活用することで理解できる場合が多いです。
まとめ
Wakeletは、探究学習やプロジェクト型学習が中心となるオルタナティブ教育において、生徒の情報活用能力を育み、学びを深めるための有効なエドテックツールとなり得ます。インターネット上の多様な情報を生徒が主体的に収集・整理し、構造化して示す力を養うことをサポートします。また、教師が学習リソースをキュレーションし、生徒に分かりやすく提供する手間を軽減します。
操作が比較的容易で、無料プランでも十分に活用できる機能が揃っているため、新しいツールの導入に際して操作習得やコストが懸念される場合でも、導入のハードルは低いと言えます。まずは無料アカウントを作成し、教師自身がいくつかコレクションを作成してみることから始めてみてはいかがでしょうか。生徒の情報との向き合い方を変え、主体的な学びをさらに促進する可能性を秘めたツールと言えるでしょう。