Seesaw:オルタナティブ教育での多角的な生徒成長評価とポートフォリオ作成を支援する活用ガイド
はじめに
オルタナティブ教育においては、知識の習得のみならず、生徒一人ひとりの個性、探究のプロセス、非認知能力の育成、そして自己肯定感の醸成など、多様な側面にわたる成長を捉え、評価することが重要視されています。従来の画一的なペーパーテストでは測りきれないこれらの要素を、どのように記録し、生徒自身や保護者と共有し、学びを促す評価につなげていくかは、多くの現場で課題となっています。
このような背景の中で、生徒の学びの記録とポートフォリオ作成を支援するデジタルツールが注目されています。その中でも、直感的な操作性と多様な記録形式、そして保護者連携機能を持つSeesawは、オルタナティブ教育の現場で特に有用なツールとなり得ます。本記事では、Seesawがオルタナティブ教育の理念とどのように親和性が高いのか、具体的な活用方法、導入・運用に関する詳細を解説します。
Seesawの概要
Seesawは、生徒が自身の学びを写真、動画、音声録音、描画、テキスト、リンクなどの多様な形式で記録し、それをデジタルポートフォリオとして蓄積できるプラットフォームです。教師は生徒の投稿にフィードバックを与えたり、活動(アクティビティ)として課題を配信したりできます。また、保護者は自身の子供のポートフォリオを閲覧し、学校での活動について理解を深めることができます。
主要な機能は以下の通りです。
- 生徒ポートフォリオ: 生徒が様々な形式で学びの成果やプロセスを記録・蓄積する場です。承認設定により、教師が投稿を公開する前に内容を確認できます。
- アクティビティ: 教師が指示やテンプレートを含む課題を作成し、生徒に配信できます。生徒はSeesaw上で直接課題に取り組み、提出できます。
- インボックス/お知らせ: 教師、生徒、保護者間のコミュニケーションをサポートする機能です。クラス全体へのお知らせ配信や、個別のメッセージのやり取りが可能です。
- スキル: カスタムスキルを作成し、生徒の投稿に対して評価を記録できます。非認知能力や特定の学習目標に対する生徒の達成度を追跡するのに役立ちます。(有料版機能)
- ブログ: 生徒の投稿の一部を、クラスや学校のブログとして外部に公開できます。(設定による)
オルタナティブ教育での活用例
Seesawは、オルタナティブ教育が重視する多様な学びや評価の側面に広く活用できます。
1. 生徒主体の学びの記録と可視化
オルタナティブ教育では、生徒が自身の興味に基づき主体的に学ぶことが奨励されます。Seesawを活用すれば、生徒は探究活動の過程、プロジェクトの進捗、試行錯誤の様子などを、文字だけでなく写真や動画、音声で自由に記録できます。
- 探究学習のプロセス記録: 生徒がリサーチで見つけた情報、実験やフィールドワークの様子、インタビューの録音、中間発表の動画などを時系列で記録します。教師はこれらのプロセスを確認し、適切なアドバイスや励ましを送ることができます。
- ものづくりや表現活動の記録: 作品の写真や制作過程の動画、作品に込めた思いを語る音声などをポートフォリオに追加します。完成品だけでなく、そこに到達するまでの努力や工夫を記録することで、生徒の自己肯定感を育みます。
- 非認知能力や振り返りの記録: 学びの中で感じたこと、難しかったこと、工夫したことなどを音声やテキストで記録させます。「今日の〇〇(感情)」「挑戦したこと」といったテーマでアクティビティを作成し、生徒に内省を促すことも可能です。
2. 多角的な成長評価の支援
Seesawは、従来の成績評価に代わる、生徒の多様な成長を捉える評価を支援します。
- パフォーマンス評価の記録: プレゼンテーション、劇、実技などのパフォーマンスを動画で記録し、ポートフォリオに追加します。具体的なフィードバックを動画や音声で直接投稿に添付できます。
- 自己評価・ピア評価: 教師が作成した振り返りのテンプレート(アクティビティ)を用いて、生徒自身が自分の学びや成果を評価したり、仲間の投稿を見てコメントしたりすることで、自己評価力や他者を尊重する姿勢を育みます。
- スキルの追跡(有料版): 創造性、協働性、問題解決能力といった非認知能力や、特定のプロジェクトで設定した個別目標などをカスタムスキルとして設定し、生徒の投稿に対してこれらのスキルでの評価を記録・追跡します。ポートフォリオを見ることで、特定のスキルの伸びを視覚的に確認できます。
3. 保護者との連携強化
オルタナティブ教育において、保護者との密な連携は生徒の学びと成長を支える上で不可欠です。Seesawは保護者への情報共有を円滑にします。
- 生徒の学びのリアルタイム共有: 保護者はアプリを通じて、自身の子供の承認された投稿をほぼリアルタイムで閲覧できます。これにより、保護者は学校での活動や学びの様子を具体的に理解し、家庭での会話やサポートにつなげやすくなります。
- 双方向コミュニケーション: 保護者は生徒の投稿に「いいね!」やコメントで反応できます。教師は保護者全体へのお知らせを配信したり、個別にメッセージをやり取りしたりすることが可能です。
- 学習進捗の共有: ポートフォリオ全体を保護者と共有することで、生徒の長期的な成長の軌跡や、どのような活動に興味を持って取り組んでいるかを効果的に伝えられます。
メリット・デメリット
メリット
- 多様なメディア対応: 写真、動画、音声など、様々な形式で生徒の学びを記録できるため、表現が苦手な生徒も取り組みやすいです。
- 生徒主体の記録を促進: 生徒自身が自分の学びを記録するという行為そのものが、メタ認知や内省の機会となります。
- 保護者との連携強化: 学校での生徒の様子が具体的に伝わるため、保護者の安心感につながり、家庭と学校が一体となって生徒をサポートする体制を築きやすくなります。
- 直感的な操作性: 生徒、教師、保護者いずれにとっても操作が比較的簡単で、導入のハードルが低い傾向があります。
- 多角的な評価が可能: 単なる成果物だけでなく、プロセスや多様なスキルに焦点を当てた評価の記録・共有をサポートします。
デメリット
- 無料版の制限: 無料版ではポートフォリオの容量や利用できる機能(スキル機能、アーカイブなど)に制限があります。継続的な利用や多機能活用には有料版(Seesaw Plus, Seesaw for Schools)が必要です。
- デバイス環境への依存: 生徒が自身のデバイスから投稿する場合、デバイスの利用状況やネットワーク環境に依存します。学校でデバイスを用意する場合も、管理コストが発生します。
- 導入初期のサポート: 教師、生徒、保護者の全員がツールに慣れるための時間やサポートが必要です。特にデジタルツールの利用に不慣れな保護者へのサポートが課題となる場合があります。
- 情報過多の可能性: 生徒や教師からの情報が多すぎると、保護者が情報を追いきれなくなる可能性があります。投稿の頻度や内容について一定のルールを設けるなどの工夫が必要になる場合があります。
導入・運用
導入ステップ
- アカウント作成: 教師アカウントを作成します。
- クラス設定: クラス名、生徒のサインイン方法(QRコード、メールアドレスなど)を設定し、クラスを作成します。
- 生徒招待: 生徒の情報を登録し、クラスに招待します。サインイン方法に応じた手順で生徒が参加します。
- 保護者招待: 保護者の連絡先(メールアドレスや電話番号)を登録し、生徒と保護者を紐づけて招待状を送付します。保護者は招待状からアカウントを作成し、生徒のポートフォリオにアクセスできるようになります。
- 運用開始: 生徒にポートフォリオへの投稿方法を指導し、アクティビティの配信やフィードバックのやり取りを開始します。
想定されるコスト
- 無料版 (Seesaw Basic): 無料で利用できますが、機能や容量に制限があります(例: 過去の投稿はアーカイブされ、アクセスに制限がかかる)。
- 有料版 (Seesaw Plus/Seesaw for Schools): 機能や容量が無制限になり、スキル追跡、アーカイブへの無制限アクセス、高度な管理機能などが利用できます。料金はプランや学校規模によって異なります。具体的な料金はSeesawの公式サイトで確認する必要がありますが、年間数千円〜(生徒あたり)が目安となる場合があります。無料トライアルが提供されている場合がありますので、試用してから検討することが推奨されます。
必要なデバイス環境
生徒が投稿するには、スマートフォン、タブレット、PCなどのインターネットに接続されたデバイスが必要です。教師も管理やアクティビティ作成のためにデバイスが必要です。保護者は主にスマートフォンやタブレットで利用することが多いです。
操作性・習得コスト
Seesawはユーザーインターフェースが直感的で分かりやすく設計されています。アイコンベースの操作が多く、特に生徒にとっては、写真や動画を撮ってアップロードするなど、普段使い慣れているスマートフォンアプリに近い感覚で利用できるため、比較的容易に習得できます。
教師にとっても、アクティビティ作成や投稿の承認、フィードバックの入力といった基本的な操作は、慣れれば短時間で行えます。ただし、スキルの設定や詳細な管理機能など、全ての機能を使いこなすにはある程度の習得時間が必要になる場合があります。
公式サイトでは、教師向け、生徒向け、保護者向けの分かりやすい操作ガイドや動画チュートリアルが提供されています。これらの資料を活用することで、スムーズな導入と習得をサポートできます。
サポート体制
Seesawは提供元によるサポート体制を用意しています。
- ヘルプセンター/FAQ: 公式サイトに詳細なヘルプセンターがあり、よくある質問への回答や操作方法に関する記事が充実しています。検索機能も利用できます。
- 問い合わせ方法: ヘルプセンターを通じてサポートチームへの問い合わせが可能です。
- 日本語対応: ツール自体やヘルプセンターの一部は日本語に対応しています。ただし、サポートチームによる直接的な日本語での問い合わせ対応の有無は、プランや時期によって異なる可能性があるため、事前に確認することが望ましいです。
- ユーザーコミュニティ: 世界中にSeesawのユーザーがおり、オンラインコミュニティなどで情報交換が行われています。
まとめ
Seesawは、オルタナティブ教育が目指す生徒一人ひとりの多様な学びと成長を多角的に捉え、記録し、共有するための強力なツールとなり得ます。生徒が主体的に自身の学びを記録する習慣を育み、保護者との連携を強化し、評価を単なる成績ではなく成長を促す機会に変える可能性を秘めています。
導入にあたっては、無料版で試用し、機能制限が教育目的に合うかを確認すること、有料版のコストを把握すること、そして教師、生徒、保護者への丁寧な導入サポートを計画することが重要です。操作性は比較的高いため、デジタルツールの扱いに慣れていない方でも、適切なガイドがあれば十分活用できるでしょう。
オルタナティブ教育の現場で、生徒の生き生きとした学びのプロセスと豊かな成長を記録し、関わる全ての人で共有するために、Seesawの導入を検討する価値は十分にあります。