個別最適化学習を支援する動画教材活用ツール Edpuzzle:オルタナティブ教育での実践ガイド
はじめに
オルタナティブ教育の現場では、生徒一人ひとりの興味や進度、学習スタイルに合わせた「個別最適化された学び」の提供が重視されています。多様な生徒に対応するためには、画一的な教材ではなく、柔軟でインタラクティブな学習リソースが求められます。
本記事では、既存の動画リソース(YouTubeなど)や自身で作成した動画に、解説や質問を挿入してインタラクティブな教材を作成できるエドテックツール「Edpuzzle」をご紹介します。Edpuzzleがオルタナティブ教育の理念とどのように親和性が高く、現場でどのように活用できるのか、その可能性を探ります。
Edpuzzleの概要
Edpuzzleは、動画をベースにしたインタラクティブなオンライン教材作成プラットフォームです。主な機能は以下の通りです。
- 動画のインポート: YouTube、Khan Academy、National Geographicなどの既存動画プラットフォームから動画を検索してインポートできます。また、自身で撮影・作成した動画をアップロードすることも可能です。
- 動画の編集: インポートした動画を必要な部分だけ切り取ることができます。
- インタラクティブ要素の追加: 動画の特定のタイムラインに、以下の要素を追加できます。
- 音声解説 (Audio Notes): 動画の内容について補足説明や指示を音声で追加できます。
- 音声トラック (Audio Track): 動画の元の音声を消し、ナレーションとして自身の音声を重ねることができます。
- 質問 (Questions): 選択式、記述式、穴埋め式の質問を挿入し、生徒が動画を視聴しながら回答できるようにします。
- 生徒の進捗管理: 生徒が動画教材をどこまで視聴したか、質問にどのように回答したかをリアルタイムで追跡し、理解度を確認できます。
- クラス管理: クラスを作成し、生徒を招待して課題として動画教材を配布できます。
これらの機能により、教師は一方的に動画を見せるだけでなく、生徒の思考を促し、理解度を確認しながら、動画を通じた個別学習を設計することが可能になります。
オルタナティブ教育でのEdpuzzle活用例
Edpuzzleは、その柔軟性とインタラクティブ性から、オルタナティブ教育の多様な学習シーンで効果的に活用できます。
- 生徒のレベルや興味に合わせた補習・発展学習: 特定の生徒がつまずいている単元や、より深く探究したいテーマに関する動画をEdpuzzleに取り込み、その生徒の理解度や興味に合わせた解説や質問を追加します。これにより、個別指導の時間を確保しつつ、生徒は自分のペースで繰り返し学習できます。
- 反転授業の導入: 教室での実践的な活動の前に、基本的な概念を理解するための動画教材をEdpuzzleで作成し、事前に生徒に視聴してもらいます。動画内に理解度を確認する質問を挿入することで、生徒がどこを理解し、どこに疑問を持っているかを把握した上で、教室での活動をより効果的に進めることができます。
- 探究学習における情報収集の補助: 生徒が探究テーマに関連する動画を視聴する際に、重要なポイントを音声解説で示したり、内容理解を促す質問を挿入したりできます。生徒はただ漫然と動画を見るのではなく、意図を持って情報にアクセスし、整理する手助けとなります。
- 欠席した生徒へのフォローアップ: 授業で扱った内容に関連する動画教材をEdpuzzleで作成し、欠席した生徒に提供します。生徒は自宅などで自分の都合の良い時間に学習を進められ、教師は進捗を確認できます。
- 生徒による教材作成プロジェクト: 生徒が自身で調べた内容について動画を作成し、そこに他の生徒への質問や解説をEdpuzzleで追加するプロジェクトを設定できます。これは、内容理解の深化だけでなく、表現力やプレゼンテーション能力、協働といった非認知能力の育成にも繋がります。
これらの活用例はあくまで一例です。Edpuzzleの機能を組み合わせることで、オルタナティブ教育の多様なニーズに合わせた柔軟な学習設計が可能になります。
Edpuzzleのメリット・デメリット
メリット
- 個別進度学習への対応: 生徒は自分のペースで動画を視聴し、理解できるまで繰り返すことができます。質問への回答を通じて、自己調整学習を促す要素も含まれます。
- 理解度の容易な把握: 生徒の視聴時間、どこで一時停止したか、質問への正誤率などがデータとして蓄積されるため、教師は生徒一人ひとりの理解度や学習状況を詳細に把握できます。
- 既存リソースの有効活用: YouTubeなどに存在する膨大な教育系動画を教材として活用できるため、ゼロから教材を作成する負担を軽減できます。
- インタラクティブ性の向上: 動画に質問や解説を挿入することで、受動的な視聴ではなく、能動的な学びを促します。
- 教師の負担軽減(一部): 同じ内容を複数の生徒に繰り返し説明する代わりに、高品質な動画教材を作成・配布することで、その時間を個別指導や他の活動に充てることができます。
デメリット
- 動画リソースへの依存: Edpuzzleは動画をベースとするため、教材作成は適切な動画リソースがあるかどうかに左右されます。
- ネットワーク環境の必須: 生徒が利用するには、安定したインターネット接続が必要です。
- 全ての学習内容には不向き: 実技や体験、対面でのディスカッションが重要な学習内容には、Edpuzzle単独での活用は限界があります。他のツールや活動との組み合わせが必要です。
- 質問形式の限界: 無料プランでは質問形式に制限がある場合や、より高度なインタラクティブ要素を求める場合には不十分な場合があります。
- 日本語コンテンツの検索・利用: 海外発のプラットフォームであるため、日本語の動画コンテンツを検索する機能や、日本語でのサポート体制は、英語に比べて限定的である可能性があります(ただし、YouTube等の日本語動画は利用可能です)。
導入ステップ・コスト・サポート
導入ステップ
- アカウント作成: Edpuzzleのウェブサイトにアクセスし、教師用アカウントを作成します。Googleアカウント等との連携も可能です。
- クラスの作成: 指導するクラスを作成し、クラス名や説明を設定します。
- 生徒の招待: 生成されたクラスコードを生徒に伝えるか、メールアドレスを登録して生徒を招待します。生徒はEdpuzzle上で生徒アカウントを作成し、クラスに参加します。
- 動画教材の作成/インポート: 検索機能を使って既存の動画を探すか、自身の動画をアップロードします。
- インタラクティブ要素の追加: 動画を編集し、音声解説や質問などを挿入します。
- 課題として配布: 作成した動画教材を特定のクラスや生徒に課題として配布し、提出期限などを設定します。
これらのステップは比較的直感的で、PC操作に慣れている方であれば、基本的な動画教材の作成までそれほど時間をかけずに習得できると考えられます。Edpuzzle自体にも分かりやすい操作ガイドやチュートリアル動画が用意されています。
コスト
Edpuzzleには無料プランと有料プラン(Edpuzzle Pro)があります。
- 無料プラン: 一定数の動画教材を作成・保存できます。基本的な機能は利用可能ですが、保存できる動画数や追加できる機能(例: より多くの質問形式、学校単位の管理機能など)に制限があります。オルタナティブ教育施設で少人数の生徒を指導する場合や、まずは試してみたいという場合には、無料プランでも十分に活用できる可能性があります。
- 有料プラン (Edpuzzle Pro): 保存できる動画数が大幅に増えたり、学校・団体向けの管理機能が利用できたりします。費用は利用人数や契約形態によって異なりますので、公式サイトで最新の情報を確認するか、問い合わせる必要があります。学校・教育機関向けのライセンス体系が用意されています。
まずは無料プランで試用し、自身の教育現場での有効性を確認した上で、必要に応じて有料プランへの移行を検討するのが現実的です。
サポート体制
Edpuzzleは、オンラインのヘルプセンターを提供しており、よくある質問(FAQ)や操作ガイドが充実しています。操作方法で不明な点がある場合は、まずヘルプセンターを参照することで多くの疑問は解決できる可能性があります。
サポートへの問い合わせ方法も提供されていますが、英語での対応が中心となる場合があります。日本語での個別サポートの提供状況については、直接問い合わせるか、導入代理店等がある場合はそちらに確認が必要です。ただし、操作自体は視覚的に分かりやすいため、英語が苦手な場合でも、ヘルプセンターの画面情報などから操作方法を理解できる可能性は高いです。
まとめ
Edpuzzleは、既存の動画リソースに付加価値をつけ、インタラクティブな動画教材として再構築できる強力なツールです。生徒一人ひとりの学習進度や理解度に合わせて内容を調整したり、興味を引き出す質問を挿入したりすることで、オルタナティブ教育が目指す個別最適化された学びをオンラインでも効果的に実現する可能性を秘めています。
操作は比較的容易であり、無料プランから試せるため、導入のハードルは低いと言えます。まずは無料プランでいくつかの動画教材を作成し、ご自身の生徒たちの反応や学習効果を観察してみることから始めてはいかがでしょうか。Edpuzzleの活用が、生徒たちの主体的な学びをさらに促進し、教師の教育実践をより豊かにするための助けとなることを願っております。