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生徒の発表力と相互評価を育むFlipgrid:オルタナティブ教育での実践ガイド

Tags: Flipgrid, 学習成果発表, 相互評価, オルタナティブ教育, エドテック

はじめに:Flipgridがオルタナティブ教育にもたらす可能性

オルタナティブ教育では、生徒一人ひとりの多様な学びを尊重し、探究学習やプロジェクト学習といった主体的な活動を重視しています。これらの学習プロセスを経て生まれた成果を共有し、他者からのフィードバックを得ることは、生徒の学びを深め、自己肯定感やコミュニケーション能力、批判的思考力といった非認知能力を育む上で非常に重要です。

情報過多の時代において、多機能すぎるツールはかえって現場の負担となることがあります。オルタナティブ教育の現場で求められるのは、生徒が手軽に自分の考えや成果を表現でき、同時にクラスメイトと安全な環境で交流できる、シンプルかつ効果的なツールです。

本記事では、Microsoftが提供する動画ベースのディスカッションプラットフォーム「Flipgrid」をご紹介します。Flipgridは、生徒が短い動画を投稿し、それに対して他の生徒や教師が動画やテキストでコメントやフィードバックを送ることができるツールです。このツールが、オルタナティブ教育の現場でどのように生徒の発表力と相互評価能力を育み、探究活動やプロジェクト学習の成果共有を促進しうるのか、その具体的な活用方法や導入に関する情報をお伝えします。

Flipgridの概要と機能

Flipgridは、トピックに対して生徒が動画で応答(Response)を投稿することを基本とするプラットフォームです。教師は「トピック」(Topic)を作成し、生徒に考えてほしい問いや共有してほしいテーマを設定します。生徒はそのトピックを見て、自分の考えや成果を短い動画にまとめて投稿します。他の生徒や教師は、投稿された動画に対してコメント(Reply)を動画またはテキストで残すことができます。

主な機能は以下の通りです。

オルタナティブ教育での活用例

Flipgridは、オルタナティブ教育の柔軟な学びの場で多様な活用が可能です。

  1. 探究学習の成果発表:

    • 生徒は自分が探究したテーマについて、数分間の動画にまとめて発表します。
    • 長文のレポート作成が苦手な生徒でも、口頭での説明や視覚的な資料提示を組み合わせて表現できます。
    • 他の生徒は発表動画を見て質問や感想を動画で投稿し、発表者はそれに応答します。これにより、発表者と聴衆の双方に学びが生まれます。
    • 教師は生徒の発表内容だけでなく、構成力や表現力についてもフィードバックを送ることができます。
  2. プロジェクト学習の中間報告と振り返り:

    • プロジェクトの進捗状況や、活動を通して感じたこと、困っていることなどをチームまたは個人で動画に記録します。
    • 他のメンバーや教師は動画を見ることで状況を把握し、アドバイスや励ましのメッセージを送ることができます。
    • 定期的に動画で振り返りを記録することで、学習プロセスを可視化し、自己調整能力の育成にも繋がります。
  3. 読書感想や意見表明:

    • 読んだ本の感想や、特定のニュース記事、社会問題に対する自分の意見を動画で共有します。
    • クラスメイトの多様な視点に触れることで、多角的な見方を養い、対話のきっかけを作ります。
  4. 授業や活動の質疑応答:

    • 授業で分からなかった点や、さらに深く知りたいと思ったことについて動画で質問を投稿します。
    • 他の生徒が質問に答えたり、教師が解説動画を投稿したりすることで、生徒主体で疑問を解消する文化を育みます。
  5. 自己紹介やチームビルディング:

    • 新しいクラスやチームでの自己紹介を動画で行います。趣味や特技を短い動画で紹介することで、互いの個性を知るきっかけになります。
    • 短いアイスブレイク活動として、お題に沿った動画を投稿し合うことで、リラックスした雰囲気でチームワークを築けます。

これらの活用例はあくまで一例です。Flipgridは生徒が自由に表現できる場を提供するため、オルタナティブ教育の理念に基づいた様々な創造的な使い方が可能です。

Flipgridのメリット・デメリット

Flipgridをオルタナティブ教育の現場で活用する上でのメリットとデメリットを整理します。

メリット:

デメリット:

導入・運用について

Flipgridの導入は比較的容易です。

  1. アカウントの作成: Microsoft EducationアカウントまたはGoogleアカウントがあれば、Flipgridのウェブサイトからサインアップするだけで教師アカウントを作成できます。
  2. グループの作成: クラスやプロジェクトチームごとに「グループ」を作成し、生徒を招待します。参加方法は、招待リンク共有、QRコード、Google Classroom/Microsoft Teams連携などがあります。
  3. トピックの作成: 学びたいテーマや課題を設定し、動画の制限時間やモデレーション設定などを調整して「トピック」を作成します。
  4. 生徒への共有: 作成したトピックのリンクやQRコードを生徒に共有します。
  5. 生徒の投稿とフィードバック: 生徒は共有されたリンクからトピックにアクセスし、動画を投稿したり、他の生徒の動画にフィードバックを送ったりします。

費用: 教育機関向けのFlipgridは、ほとんどの機能が無料プランで提供されています。これにより、導入コストを気にすることなく試用・本格導入が可能です。ただし、将来的に機能拡充に伴い有料プランが登場する可能性もゼロではありませんので、最新情報は公式サイトでご確認ください。

必要な機器: PC、タブレット、スマートフォンのいずれかが必要です。内蔵または外付けのカメラとマイクがあれば利用できます。特別な高性能機器は必須ではありません。

操作性・習得コスト

Flipgridは、特にスマートフォンやタブレットでの操作が直感的で、生徒にとっては馴染みやすいインターフェースとなっています。動画の撮影や簡単な編集(トリミング、スタンプ追加など)もアプリ内で完結するため、別途高度な動画編集ソフトの知識は不要です。

教師側も、トピックやグループの作成、モデレーションといった基本的な操作は分かりやすく設計されています。新しいツールに不慣れな教師でも、数回の試行で基本的な使い方は習得できるでしょう。Microsoftの公式ヘルプページや、他の教育者による活用事例が多く共有されているため、困った際に情報を得ることも比較的容易です。

サポート体制

FlipgridはMicrosoftが提供しているサービスであり、Microsoftの公式ヘルプドキュメントが利用可能です。ウェブサイト上のFAQやチュートリアル動画も充実しています。日本語対応のドキュメントやインターフェースも提供されています。

また、教育者向けのFlipgridコミュニティは非常に活発で、世界中の教師が活用事例やアイデアを共有しています。TwitterなどのSNSでも #Flipgrid といったハッシュタグで検索すると、多くの情報やサポートを見つけることができます。

まとめ

Flipgridは、動画を活用して生徒の学習成果を共有し、相互にフィードバックし合う文化を育むための強力なエドテックツールです。オルタナティブ教育の現場で重視される生徒の主体性、多様な表現の尊重、非認知能力の育成といった側面に貢献する多くの可能性を秘めています。

特に、文章による表現が苦手な生徒や、探究活動のプロセスや成果を視覚的・口頭で伝えたい場合に適しています。操作も比較的簡単で、多くの機能が無料で利用できるため、エドテックツールの導入に慎重な組織でも試しやすいツールと言えます。

Flipgridを生徒の「発表の場」としてだけでなく、互いに学び合う「対話の場」「フィードバックの場」として活用することで、オルタナティブ教育における生徒の学びをさらに豊かにすることができるでしょう。導入を検討される際は、まずは無料アカウントを作成し、簡単なトピックを作成して生徒と一緒に試してみることをお勧めします。